2017.10.06

子どものお手伝いを断る私って、ビリ親ですか?

連載第3回目のテーマは、「お手伝い」。「そういえば、うちの子、お手伝いをしてくれなくって……」、そんな声がたくさん聞こえてきそうです。ところが今回の相談内容は、そのちょっと“斜め上”をいく、「子どもがお手伝いをしたがって困る……」というもの。

聞き手は、小1と小3の娘の子育てと仕事の両立に奮闘する当製作所の女性所員。それから特別所員のペンギンの「ぺんた」も一緒にお聞きしましたよ。

坪田先生の名回答はどんどん展開して、子どもが「ペットを飼いたい!」と言い出したときにどうすればいいか、までスカッと解決してくださいました。いつも以上におトクな連載第3回のはじまり、はじまり。

「お手伝いを断る私って、ビリ親ですか?」

──
先生、聞いてください! 昨日、わたしとってもキツい言葉をわが子に投げかけてしまって…。自己嫌悪で胸が張り裂けそうなんです。
坪田
えっ、どうしたんですか? この前はお子さんの将来をめっちゃ悲観していたかと思ったら、今回は自己嫌悪ですか。お母さんもたいへんですね。で、いったいどんなひどい言葉をお子さんにかけちゃったのでしょうか?
──
夕飯の準備のときに「野菜を切るとか、お手伝いしたい」って娘が言ってくれたんです。でも、すごく急いでいたので「忙しいから、またこんどね」って。
坪田
それだけですか? 全然キツくありませんよ。お子さん的には、たしかに一瞬ガッカリしたかもしれませんけど。
──
そうですよね、ガッカリしちゃいますよね。なんであのとき、やさしいウソをついてやれなかったのかと思うと、悲しくて悲しくて。
坪田
“やさしいウソ”ですか。でも、恋愛ドラマでもないのに、とっさに気のきいたこと言うなんて、なかなかむずかしいですよね。お子さんの心は大切ですけど、それより、お母さんがずっとクヨクヨされていることのほうが、ぼくは問題だと思いますよ。「悔やむ」とか「悩む」とか感情に流されるのは、卒業しませんか。そして「台所のお手伝い問題」をズバッと一瞬で解決しましょうよ。
──
ええーっ、解決できるんですか? それって、うちの子に「お手伝いをしてもらう方向」で?
坪田
もちろん。「リフレーミング」ひとつで「お手伝いをしてもらう方向」で解決します。「リフレーミング」って……、もう覚えていただけましたよね。見方や考え方を変えたり、「視点をズラす」という意味の心理学用語です。いまのお母さんは「かえって時間がかかるから、お手伝いを頼まない」という方針ですよね。これを「時間の短縮になるから、お手伝いを頼む」という真逆の考え方にシフトしてほしいんです。
──
でも先生、子どもにちょっとむずかしいお手伝いをさせると、ぜったいどこかでケガすると思うんです。包丁で指を切るとか、コンロで火を使ってヤケドするとか。で、ケガしたらすぐに病院に行かなきゃいけないでしょ。夜だと救急外来を探さなきゃいけない。それに下手したら、何日間も通院しなきゃいけない。そこまでシミュレーションすると、気が遠くなってしまって……。
坪田
おっしゃる通りですね。ケガのリスクは、ついて回りますよね。だから、そんなリスクも「織り込み済み」にしたうえで、この計画を進めないといけませんね。
──
うわー! 即答していいですか……。その計画、わたしにはムリです。なんか、そんなタイトルの映画ありましたよね、「ミッション・インポッシブル」!
坪田
お母さん、落ち着いてください。ここもリフレーミングしてみましょうか。「ケガは早い段階で済ませておいたほうがいい」ととらえてみるんです。「ケガ」って通過儀礼みたいなもの。「ケガをしてはじめて、体でわかること」ってたくさんあリます。「刃物って、こう扱うと危険なんだな」「火って、こんなに熱いんだ」とか。そんなことをまったく体感しないまま大人になってしまうことのほうが、ある意味、危ないですよね。
──
たしかに。「大切に育てられすぎて、包丁も持ったことがない大人」になっちゃう。でも、やっぱり怖いですね。これが「過保護」ってことなのでしょうか。ケガを前向きに考えないといけないんですね。
坪田
ケガも“必要悪”なんですよ。ケガのリスクも織り込んで、まとまった期間、お子さんに炊事を教えてあげてください。連休とか、冬休みとか、お母さんが比較的時間をつくりやすい時期ってありませんか?
──
あのー、わたし、ヒマな時期がまったくないんです。お盆も正月も含めて、つねに時間に追われていて。自分で料理していても、心ここにあらずで、よくお鍋を焦がすほどなんです。
坪田
あらら、お母さんのほうこそケガしちゃいそうですね。
──
ああ、ほんとですね。娘の心配してる場合じゃなかった(苦笑)。
坪田
その家庭のバタバタ感、ぼくも記憶にあるなあ……。昔話になりますけど、うちの母もそんな感じでしたよ。いまでいうシングルマザーで、女手ひとつでぼくと妹を育ててくれたんです。母も、つねに時間がなさそうでした。ちなみに、おカネもぜんぜんなかった(笑)。もう「ギャグか!?」っていうくらい貧しくて。ここだけの話ですけどね。
──
ええっ、先生はそんなご苦労をされていたんですか? その明るいお人柄からは、想像できません!
坪田
母の場合、どんなに忙しくても「お金を出して時間を買う」なんてむずかしかったわけです。かわりに「知恵で乗り切る」という子育てをしてくれました。この「台所のお手伝い問題」にも通じるところがあるので、ちょっとお話ししていいですか?
──
ぜひ聞かせてください。

魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える

坪田
ちいさなお子さんが漢字を覚えるときって、まわりの大人に読み方を聞きがちですよね。「あの看板、なんて書いてあるの?」って。ぼくもそうでした。でも、母は教えてくれなかったんですよ。
──
へえ! どうしてですか? せっかく興味をもって聞いているのに。
坪田
母の車に乗せられて、看板の漢字の読み方をはじめて聞いた日のことです。いまでも鮮明に覚えてるんですが、母はじっと黙って答えてくれませんでした。そのかわり、近くの本屋さんまで車を飛ばして、漢和辞典を買ってくれたんです。
──
ええーっ! 漢和辞典? あの分厚いやつですか!?
坪田
そう、小学生用の分厚いやつです。そして、その場で漢字の「画数」の数え方を教えてくれて、ぼくは「愛知県」の「愛」という字が読めるようになったんです。それから母は、ぼくが漢字の読み方を知りたいとき、かならず辞書を引くのにつきあってくれ、ひとりで漢和辞典が使いこなせるようにしてくれました。答えは、ぜったいに言わずにね。
──
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」っていう外国のことわざを聞いたことがありますけど、そういうことですか?
坪田
はい。もちろん「魚の釣り方」を体得するのはカンタンなことじゃないですよ。漢字の画数を割り出すのって、大人でもちょっと手間ですよね。「これ、なんで二画じゃなくて一画ってカウントするの?」みたいなときもある(笑)。でも、そんな細かいことまで含めて、母は「漢和辞典のルール」をある時期、徹底的に教えてくれたんです。だから、ぼくが漢字の読み方そのものを母にたずねることは、その後ゼロになりましたよ。
──
すごい! 先生のお母様も、さすがですね!
坪田
ぼくが塾講師の仕事につくようになってから、ふとそんなことを思い出しましてね。母にたずねたことがあるんです。「あんなに小さかったおれに、なんで漢字辞典の引き方を教えてくれたの?」って。そしたら彼女、こう言って笑ったんですよ。
──
なんと?
坪田
「だって、あとで私がラクになるってわかってたから」
──
ああ!
坪田
わが母ながら「いろいろ考えてたんだなぁ」って感心しました。手前味噌になっちゃいますが、この話って「台所のお手伝い問題」にも通じると思うんです。
──
「できるだけ早い時期に時間を割く」ってことでしょうか。
坪田
そうですね。めんどうなことは早い時期にやっておいたほうが、あとあと断然ラクになるはずです。
──
たしかに、お手伝いの仕方を早く覚えてくれたら、わたしがラクになりますね。
坪田
そうですよ。早い時期に「時間を割く」「ちょっとした手間をかける」という考え方は、じつは子育てや教育の基本原則なんです。誤解しないでほしいのですが「早期であればあるほどいい」「周囲の子どもたちとくらべて、早いほうがいい」という意味ではありません。親御さんが必要に迫られたり、気づいたら、「すぐにやる」という意味です。
──
その基本原則って、ほかのどんなことにあてはまりますか?
坪田
たとえば、「家訓をつくること」です。家訓をつくるのも、ちょっぴりハードなんですが、時間を捻出してでも早めに終えたほうがよい作業です。
──
か・・・家訓? それって明治時代とか江戸時代の話ですか?
坪田
いえいえ、ぼくは現代の話をしていますよ(笑)。「家訓」といってもピンとこないようなら、「社是」「社訓」、もしくは「クレド」でもいいです。
──
「クレド」って?
坪田
クレドとは、ラテン語で「信条」「志」。そこから転じて「企業理念」という意味です。
──
へえー。すみません、不勉強で聞いたことないです。たとえば……?
坪田
じゃあ、実例を出してみますね。ある大手製薬会社のクレドでは「第1の責任はお客さんに、第2の責任は全社員に、第3の責任は地域社会に、第4の責任は会社の株主にある」と定められています。つまりこれって、「会社として大切にするものの優先順位」なわけです。家庭でもこんなふうに「大切なこと」の優先順位を決めておくと、あらゆることがブレなくなりますよ。
──
たしかに「大切なこと」っていっぱいありすぎですよね。その順番を、最初にしっかり決めておくと、あとあとラクになるということですか。家庭も、企業の経営と同じというわけですね。
坪田
そうです。家庭も、運営するうちにさまざまな問題が起こってきます。親御さんが「トップ」として判断を迫られる局面は、どんどん増えるんです。そのたびに右往左往してたら、家族みんなが困るでしょう。
──
うわー、面倒くさそう。たとえばどんな問題が起こってくるんでしょう?
坪田
よく聞くのが「ペットを飼う、飼わない」という問題。「うちの子が犬を飼いたいって言うんですけど、すぐ飽きちゃったら困るし、先生どうすればいいですか?」って。これこそ「各ご家庭で判断してください」としか言いようがない問題の代表格です。でもそう返すと「親だけでは判断できません」とおっしゃいます。それは「家訓」がないからなんです。
──
すみません、うちも「家訓」、ないです……。
坪田
家訓があると、的確な判断が瞬時にできますよ。たとえば「どんな人にもやさしくしよう」という家訓の場合。「弱い立場の人の心がわかる子になってほしいから、ペットを飼うことはプラスになるかも」と考えることができますよね。あるいは「健康第一」が家訓なら「ペットの散歩をすることが、健康増進につながるかも」と、家訓に紐づけてすみやかに結論を出せる。
──
なるほどー。そう関連づければいいんですね!
坪田
もちろん家訓のせいで、ペットを飼うのをあきらめざるをえないケースも出てくるでしょう。極端な例をあげてみますよ。「うちの家系は代々一流大学を卒業すべし」という家訓の場合。「ペットより、まず勉強でしょ!」となるかもしれません。「目指せマイホーム」が家訓で、家族全員で節約に努めているご家庭の場合。お子さんが「ペットを飼いたい」と切り出した途端に「なに言ってんだ!」って怒られちゃうかもしれない。
──
そうですね、「いまじゃないでしょ、家買ったあとにして」って(笑)。
坪田
でも逆に言えば、お子さんが家訓をくつがえすくらい理路整然と反論できるようになれば、それはそれですごいことじゃないですか。
──
たしかに。
坪田
なにが言いたいかというと、ご家庭ごとに教育方針をしっかりもってほしいんですよ。「うちはうち、よそはよそ」でいいですから。そして、それを一貫させるべきです。「家訓」って、その象徴です。
──
なるほど。たしかに「ペット」に限らず、「休みの過ごし方」とか「テレビやゲームとのつきあいかた」とか、いろんな悩みがありますけれど……。家訓があれば、一瞬で判断できる!
坪田
ただし、家訓をつくるのってラクなことではありませんよ。うちのように、母ひとりなら、「わが家はこれで行くからね」って独断で通るでしょう。でも、お父さんとお母さんで話し合うと、意見がけっこう衝突するものです。
──
うわー、うちもモメそうです。
坪田
でも、そこで意見をすり合わせる作業も、楽しいものじゃないですか。お互い知らなかった面が見えてきたりするかもしれません。「あの人、そんなことまで考えてくれていたなんてうれしい」って感激したりしてね。
──
まあ、その逆もあるかもしれませんけど(笑)。
坪田
「家訓づくり」って「台所のお手伝い問題」とまったく同じです。子育て初期に手間をかけることって、重要ですよ。むしろ腹をくくって、積極的に立ち向かったほうがうまくいく。けれども「やったほうがいいよ」ってだれも教えてくれないから、スタンダードになっていないだけです。
──
そうですね。「家訓をつくりましょう」って書かれた育児書なんて、読んだことないです。
坪田
「クレド」とか「社是」って、簡潔に数百字とかでまとめられています。けれども、それをつくるのは気が遠くなる作業だと思いますよ。だからこそ「あの会社のクレド、ハンパない!」とか、世間で評判になったりするわけでしょ。たとえば世界中にホテルを展開してるリッツ・カールトンとか、パソコンで知られるヒューレット・パッカードとか。「企業理念」そのものに注目が集まってホメられるなんて、すごい話じゃないですか。
──
はい。うちもホメられる家訓……はムリですが、うちなりの身の丈に合った家訓をつくってみます。電車に乗ってるあいだに、私の意見だけでもまとめられそう。
坪田
いいですねえ。家訓がしっかりかたまったら、お手伝いの問題もよい方向に向かうはずです。「忙しいからこそ、教えたいんだ」っていう積極的な気持ちがわきあがってきたら、もう解決したも同然ですよ。
──
先生、お手伝いのことは、もうわたしのなかでは解決しました。先生のお母さまのお話を聞いて、恥ずかしくなったんです。「いそがしさ」の意味がちがうって……。今日は、おかげさまでいろんなリフレーミングができました。さっそく「お手伝いプロジェクト」をはじめます。
坪田
最初は少しずつでいいですよ。心理学には「正統的周辺参加」という言葉があります。人になにか行動を起こしてもらいたいときは、段階を踏んでもらうことが大事なんです。いきなり、「野菜、めっちゃ細かくみじん切りにして」「絶妙な火加減で、肉を焼いて」っていうんじゃなくて……。たとえば、食事で使うお皿を出してもらったり、野菜を洗ってもらったり。危険が少ない作業から高度な仕事に、ゆっくり移行すればいい。
──
それならうちでもできそうです。忙しいからこそ、ですね。
坪田
そうですよ。忙しい家庭ならではの家訓って、あるはずなんです。うちの母も、もしかしたら心に秘めたなにかがあったのかもしれないなあ。今度、聞いてみようかな。お母さん、家訓が決まったら、ぜひ教えてくださいね。
ふむふむ
今日のまとめ
・「子どもを味方につける気持ち」で、家庭を運営する
・「危なそうに見えること」も「通過儀礼」と心得る
・親が話し合って「家訓」をしっかりと定める
・家族の問題は「家訓」にのっとって判断する
・勉強は、「答え」ではなく、「答えの出し方」を教える

(次回の子育ての不都合は「食べものの好き嫌い」です)

撮影:杉田空 / 文:山守麻衣
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