2018.11.01

ビリギャル先生!子どもが片づけてくれません!

「子育てにつきまとう不都合を解消します」そんなコンセプトではじまった、坪田先生の子育て相談室。連載第1回目『ビリギャル先生に聞く!子どもが急がないワケ』には多くの反響をいただきました。

坪田先生の子育て相談で得られるのは、具体的な解決法だけにとどまりません。親御さんがものごとを見る基準や考え方までガラリと変える力があります。坪田先生のあたたかい言葉は、心理学でいうところの「リフレーミング」のヒントの宝庫なのです。

聞き手は、8歳と6歳の娘をもつの当製作所の女性所員。今回も、かなり困りきった様子です……。

「フタを閉め忘れるわが子の将来が心配です」

──
坪田先生、お恥ずかしいのですが「レベルが低すぎる悩み」を相談させていただいていいですか?
坪田
お母さん、どんなことでもおっしゃってください。お悩みのレベルに高いも低いもありませんよ。
──
ほんとうですか! じゃあ相談中はぜったいに笑わないでくださいね。恥ずかしくなっちゃいますから。
坪田
はい、もちろん。一生けんめい育児に奮闘されているお母さんを、わたしが笑うわけがないじゃないですか!
──
そう言っていただけると、気持ちが少しラクになります……。じつはうちの子、「ものを元の位置に戻せない病」なんです。
坪田
はい? いま、なんとおっしゃいました?
──
うちの子、じつは“ビョーキ”なんです。病名は、「ものを元の位置に戻せない病」。それもかなり重度です。たとえば、服を脱いだら脱ぎっぱなし。本を読んだら開いたまま置きっぱなし。扉を開けても開けっぱなし……。
坪田
お母さん、それ、ちっともおかしなことじゃないです!(笑)幼いお子さんならよくあることですから!
──
あっ、先生、いま笑った……。
坪田
いやいや、すみません。もともと笑顔がクセになっているだけで、気持ちは真剣なんですよ。
ちょっと焦る坪田先生。暑くなって上着を脱ぎました
──
この“ビョーキ”でいちばん困る症状は「ペットボトルのフタを閉め忘れる」というものなんです。
坪田
は、はあ。
──
フタをし忘れたペットボトルに、家族の手が誤ってあたって倒れてしまい、そこらへんが水びたしになるという大参事が、いままでに何度もくり返されているんです。「フタひとつ閉められないなんて、将来立派な大人になれないわよ!」って、わたしは何度叱ったことか……。
坪田
ああ、なるほど。いやいや、笑ってしまってごめんなさい。あのですね、ペットボトルのフタを閉め忘れ続けているお子さんでも、将来立派な大人になれます。むしろ、社会で大活躍しちゃうかもしれない。そこはぼくが保証するので、安心してください。
──
ほんとうですか? いくら坪田先生の言葉でも、ちょっと信じられないです。ペットボトルのフタひとつ閉められない子どもが、まっとうな大人に成長できるとは思えなくて。ましてや社会で活躍するだなんて!
坪田
お母さん、ちょっと落ち着いて考えてみましょう。ぼくから見るに、お母さんご自身って、よくも悪くも「完璧主義な人」なんです。だからお子さんのちょっとした特徴が、ものすごく大きな「欠点」に見えてしまう。ときに長所より短所のほうが気になってしまう。そういう方こそ、「リフレーミング」の技術を身につけて、ひんぱんに視点をズラしてみてほしいんです。
──
リフレーミング? 前回お聞きしたような気が……。
坪田
「リフレーミング」は心理学用語のひとつです。ものの見方や考え方を、大きくガラリと変えることです。実際にやってみましょうか。「ペットボトルのフタを開けたら、開けっぱなし」問題にフォーカスして考えてみますよ。いまのお母さんは、お子さんに「ペットボトルのフタを開けたら、閉める」というルールを守ってほしいと願っているわけですよね。
話に熱がこもってきた坪田先生
──
はい、そうです。
坪田
では、ほかのルールについても目を向けていきましょう。人生には、ほかにも無数のルールが存在するわけですよね。たとえば基本的なルールとしては「人を殺さない」「人を殴らない」「ものを投げない」……。
──
「人を殺さない」って、そこからですか!? そんなルールは、いくらうちの子でもとっくにクリアしてます。「人を殴らない」「ものを投げない」も大丈夫です。
坪田
ええっ! じゃあ、お子さんはもう3つもルールを身につけられたわけですか。それは素晴らしい!! これらはけっこう難しいルールですよ。
──
えっ、そうなんですか? これって難しいんですか? 
坪田
そうです。決してカンタンじゃないですよ。じゃあ、つぎ。「ウソをつかない」「ものを盗まない」「悪態をつかない」というルールについてはどうですか。
──
えっと、「悪態をつかない」というルールは守れていません。ケンカになると、いつも決まってわたしのことを「クソババア」ってののしるんですよ。ひどくないですか?「ババア」なんて外じゃ一度も言われたことないのに……ブツブツ。
坪田
うんうん、お母さんの気持ちはよくわかります。傷ついちゃいますよね。では、いまあげた6つのルールに守ってほしい優先順位をつけてみましょうか。これは、世間一般の尺度ではなく、お母さん独自の価値観で決めてしまってください。世間体とか一切考えないでくださいね。
──
ええっ、世間体を考えなくていいんですか? わかりました……。
➀「人を殺さない」
➁「ものを盗まない」
➂「人を殴らない」
➃「ものを投げない」
➄「悪態をつかない」
➅「ウソをつかない」
こんな感じでしょうか、むずかしいですね。うーん、一般的には「ウソをつかない」の順位をもっと上げておくべきなんでしょうか?
坪田
お母さんご自身の方針で決めちゃっていいんです。これってじつは「自分の頭で考えて、子育て(教育)の軸をつくる」という親御さんのためのレッスンですから。
──
なるほど! じゃあ、ちょっと変更します。
➀「人を殺さない」
➁「人を殴らない」
➂「ものを盗まない」
➃「ウソをつかない」
➄「ものを投げない」
➅「悪態をつかない」
うーん、いい歳をしてお恥ずかしいですが、これで正解かどうかあまり自信がありません。
坪田
はい、それでいいんです。お母さんはいま、素晴らしい気づきを得られました。「子育て」には、そもそも正解がないんですよ。
──
ええー、こんなに頭を使ったのに「正解がない」だなんて!
坪田
うんうん、そうですよね。でも「子育て」って本来そういうものなんです。正解なんて、ない。さらにもうひとふんばりしていただきましょう。お母さんが気にされていた「ペットボトルのフタを閉める」というルールを、このリストに加えるとすれば、どこらへんに入れましょうか?
──
ああ、ペットボトルのフタ……。そんなこと、もう忘れてました。だって、とても小さい問題じゃないですか。家のなかだけの問題だし、誰かを傷つけるわけでもないですし。
坪田
でしょ? お母さん、これがリフレーミングの本質的な効用なんです。「何がほんとうに大切か」が浮き彫りになりましたね。おまけにお母さんの子育ての成果も「見える化」されたじゃないですか。
──
ああ、なるほど。たしかに、なんだか自信がわいてきました。わたしはいままで自分のことを「子育て偏差値が低い」って悩んでいたんです。でも人生でほんとうに大切なことのいくつかは、すでにわが子に伝えられていたんですね。
坪田
そうなんですよ。ぜひ自信をもって、お子さんと向き合ってください。この「身につけるべきルール」のランキング表は、ご自身でつくって、ときどき見直すといいと思います。パソコン上でエクセルなど表計算のソフトを使うと、やりやすいですよ。
感心して聞いているペンギンのママ
──
でも先生、そうは言ってもですね、「絶対に守らせたいルール」ってあるわけじゃないですか。それはどうすれば、身につきますか? たとえば、「ものを投げない」というけっこう上位にくるルール。これはどのように守らせればよいでしょう?
坪田
ストレートにお答えしますね。約1~2カ月のあいだ集中して、のべ500回、そのルールを守るよう伝えれば、行動が定着することが実験によってわかっています。
──
ご、ご、ごひゃっかい・・。
坪田
そう、500回。だから、お子さんがものを投げようとした瞬間、もしくは投げてしまった直後に「投げてはダメ」というメッセージを、逐一伝えればよいんです。もちろんそのトレーニングが気まぐれであっては効果は半減します。親御さんが「問題行動」とみなしていることがおこなわれたら、即座にフィードバックをする必要があります。さらにいうと「問題行動」をしなかった瞬間には「大げさなまでにほめる」というフィードバックをおこなわなければなりません。
──
め…、面倒くさい……。あのう、わたし、キッパリあきらめます。そんなことするくらいなら、ほかのことに力を注ぎたいです。
坪田
お母さん、待ってました! それも、まさにリフレーミングです。お子さんの「できないこと」はいったん保留にして、かわりに「得意なこと」「好きなこと」を見つけて伴走してあげるという選択も、立派な育児です。そのほうが、お子さん本人も、そのまわりも幸せになりやすい。
──
そうなんですか!?
坪田
極端なたとえ話をしますよ。お子さんがもう少し大きくなったと仮定して考えてみてください。学校のテストの結果が、国語92点、英語94点、数学96点、社会96点、理科だけなぜか4点だったとします。率直なところ、お母さんはどう思われますか?
──
「理科さえがんばれば、完璧じゃない!」って、わが子を叱咤します。
坪田
……ですよね。それがいまの日本の親御さんにもっとも多い姿勢です。でも残念なことに、その考え方こそ、「失敗する考え方」。「大学入試にも失敗し、仕事選びにも失敗する」っていう典型的なパターンです。
──
ええっ、どうしてですか?
坪田
だって冷静に考えてみてください。お子さんは5分の4は、すでにほぼ完璧にできているんですよ。その事実をたたえることもせず、大嫌いな理科をむりやり勉強させようとしたら、お子さんはとたんにダメになってしまいます。高得点が取れている4科目の成績もいつのまにか下がってしまって、「平凡なジェネラリスト」にはなれても、「非凡なスペシャリスト」からは遠ざかります。「ソツなくバランスのとれた社会人」にはなれても、「エッジの利いた人」にはなれないでしょうね。まあ、それでいいという見方もあるかもしれませんが……。
──
じゃあ、理科が入試科目にない大学を選んで、好きなことだけに思いっきり没頭してもらうのが理想的、というわけですか?
坪田
その通りです。だって「突出した長所」だけを純粋に伸ばし続けた人が、ノーベル賞をとったり、革新的な事業を興して、世の中を前進させたりしているわけでしょう? これは机上の勉強の話に限りません。トークがズバ抜けておもしろい人は、売れっ子の芸人さんになるかもしれない。一芸をとことん磨いた結果、一流の歌手やピアニスト、俳優、画家、エンジニアetc……、つまり「なにかのプロ」になれるわけですよね。
──
「なにかのプロ」ですか。
坪田
そうです。社会に出たら「できないこと」を聞かれる機会なんて、ほぼゼロなんです。かわりに「できること」だけで評価されることが圧倒的に多くなります。
──
たしかに「あなたのできないことはなんですか?」って聞かれた記憶はないです。
坪田
つまり「できること」という武器を徹底的に磨いたほうがトクなんですよ。「5教科すべて平均的に高得点を」という考え方は、「やりたいこと」「できること」がない人のリスクヘッジ(リスクの軽減策)につながりやすいんです。まあ、ここらへんは賛否両論あるので、軽く流して聞いてください。
──
「できること」「やりたいこと」がない人って、生きていくことが厳しくなるかもしれませんね。なんだか身につまされます。
坪田
では「ペットボトルのフタ問題」に戻りますよ。フタを閉め忘れて、毎日ペットボトルを倒すような大人になったとしても、突出した能力があって、それで「稼ぐ」ことができる大人になっていれば、それは子育ての正解のひとつの形だと思うんです。フタの閉め忘れについて、約500回注意をし続けるもよし、さっさとあきらめてお子さんの可能性をさぐるもよし。2つの道のどちらかを真剣におこなうことが、親御さんの務めといえると思います。
──
うーん、たしかにそうです。でもどちらを選ぼうか迷っちゃいます。
坪田
どちらの道を選ぼうか迷ったとき、ぜひ無視してほしい“ものさし”(基準)があります。
──
ええっ、無視していいものさしがあるなんて、うれしい! いったい何ですか?
坪田
「世間体」というものさしです。あくまで「親御さんの主観」をものさしにしてほしいんです。
──
ええー、世間体を無視しちゃうなんて、ムリです……。
坪田
でもお母さん、さっきリストをつくってもらったときは「世間体を考えないこと」ができてましたよ。
──
あっ、そうでした。すみません(笑)。でも先生、まだ小さい子どもの「よいところ」を親が探そうとするなんて、なんだか早すぎじゃないですか?
坪田
いえ、決してフライングではありません。むしろ成功者の親御さんはみな、早期から「ダメなところ探し」より「よいところ探し」を積み重ねてこられたはず。エジソンのお母さんの逸話とか、有名でしょう? 
──
どんな逸話ですか?
坪田
エジソンって「学校の授業を妨害する」っていう理由で、入学から3か月後に放校処分を受けてるんですよ。それでも彼のお母さんは根気よく、家で勉強を教えていたんです。「好きなことだけに打ちこませる環境をつくった」とも言い伝えられています。エジソンの「ダメなところ」にはいったん目をつむり、「よいところ」(才能)を伸ばすことをめざしていたんでしょうね。
──
なるほど。うちでも今日から「よいところ探し」を楽しんでみます。なんだか「宝さがし」みたいでワクワクしますね。わたし「子育て偏差値」が低いと思って子どもに後ろめたい気持ちがあったのですが、すこし気持ちがラクになりました。坪田先生、ありがとうございました!
ふむふむ
今日のまとめ
・「人生で守ってほしいルール」を親の価値観で書き出す
・「ルールの体得には500回の指摘が必要」と知っておく
・「できていないこと」にこだわらず「得意なこと」を伸ばす
・「なんでもできる子」を子育ての目標にしない
・子育て中は「世間体」を気にしすぎない

次回の子育ての不都合は「お手伝い」です

撮影:森鷹博/文:山守麻衣
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