2017.09.01

ビリギャル先生に聞く!子どもが急がないワケ

親子で過ごす時間は楽しさや喜び、発見に満ちたかけがえのないもの。でも、ちょっとした「不都合」が積もり積もって、ときに怒りや嘆き、心配など、マイナスの感情に流されてしまうことも……。子育ての悩みは尽きません。

そこで『ペンギン飛行機製作所』では「親子の力を伸ばすプロ」坪田信貴先生をお招きして、悩みを解決していただくことに! 坪田先生は全国で4つの塾を運営し、のべ1300人以上の子どもたちを「子別指導」してきたことで知られる教育者です。大人の心をがっちりつかんで導いてくれる人生相談の“天才”でもいらっしゃいます。8歳と6歳の娘を持つ当製作所の女性所員が、悩みを打ち明けました。
坪田信貴(つぼた・のぶたか)先生坪田塾塾長。著作『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)が累計120万部の大ベストセラーに。同作は有村架純さん主演で映画化もされた。メディア出演や講演も多数。

「急がないわが子にイライラします」

──
坪田先生、はじめまして。今日は、まだ時計の針が読めない時期のわが子についてご相談させてください。
坪田
はい、よろしくお願いします! 時計の針は、かなり練習しないと読めるようになりませんから大変ですよね。
──
そうなんです。でも私が悩んでいるのは、わが子が「時計を読めないこと」ではなくて……。「時間の感覚がなさすぎる」ということなんです。
坪田
ああ。それは、つまり「お子さんの行動が遅~く感じられる」ということですよね。悠久の大河の流れのようにね(笑)。お母さん、もしかして「早くしなさい!」っていうのが口癖になっちゃっていませんか?
──
ええっ、坪田先生、どうしてわかるんですか!? 「早くしなさい」って、1日に何百回もくり返してます。
坪田
ほとんどの親御さんは、無意識のうちに「早くしなさい」と口に出してしまう生き物なんです。でもその99%が残念なことに「無意味な声がけ」なんですよ。
──
無意味なんですか!?
坪田
そうなんですよ。根本的なところから考えて、解決していくことにしましょうか。じゃあまず、お子さんの「時間の感覚がなさすぎること」で、お母さんが困ることって何ですか?
──
朝、小学校になかなか登校できないことです。こちらはもう、テキパキと分刻みで行動したい気分なんです。そこに、のんびりユル~いわが子が一人いるだけで、朝からイライラが最高潮です!
坪田
うんうん、気持ちはすごくわかります。ところで、お母さんはお子さんの行動ひとつひとつについて、どれくらい時間がかかるか把握をしていますか? たとえば、朝目を覚ましてからトイレをすませるまでに○分。朝ごはんを食べ終えるまでに○分。たんすから洋服をえらんで着替えるのに○分、といったように。
──
えっ? 意識したことはありません。「朝起きてから出発してくれるまで、トータルで最低1時間見ておけば大丈夫」っていうくらいで……。
坪田
それだとどんぶり勘定すぎなんです。お母さんがお忙しいのはわかります。でもイライラする前に、お子さんのひとつひとつの行動にかかる時間を把握してみてください。そうすれば、そのタイムを縮めることができますよ。
──
「タイムを縮める」って、スポーツみたいですね。
坪田
おっしゃるとおりです! スポーツ感覚、あるいはゲーム感覚で取り組めば、お子さんは楽しみながらテキパキ自主的に動けるようになるし、すぐれた「時間感覚」を幼いうちから身につけることができます。時間感覚って、じつは大学受験とも大いに関係があります。まだ先の話ですが、入試では「どの問題から解けば、最終的に高得点になるか」判断する力が明暗を分けますからね。
──
うわー、いったいどうすればそんな時間感覚が養えるのでしょうか。教えてください!
坪田
これを使ってみてください。
──
ストップウォッチですか?
坪田
そうです。まずストップウォッチを使って、お子さんの朝の日常動作ひとつひとつにかかる時間を計ってみるんです。
──
スマホのアプリを使ってもいいのでしょうか?
坪田
もちろんかまいません。たとえば「朝ごはんを食べ終えるまでに18分。たんすから洋服をえらんで着替えるのに3分15秒」という感じです。2、3日分を計れば、その平均値がわかります。
──
へえー、それはおもしろい方法ですね。そういえば、うちのお姉ちゃん(8歳)が1年生のときの担任のK先生も、ストップウォッチを活用されていました。体育の時間の着替えのときなんかに、「みんな、3分間で着替えよう!」とかけ声をかけてから、きっちり3分間、計られるそうなんです。
坪田
ユニークな先生ですねえ。
──
私、その話を聞いて「K先生、細かすぎ……」って驚いたんですけれど、ストップウォッチで計る方法って坪田先生的にも“アリ”なんですね。
坪田
もちろん、アリです! でも「みんな、3分間で着替えよう」というルールだと、もしかすると苦しくなってしまうお子さんがいるかもしれません。お子さんの動作の所要時間は、個人差が大きいですから。それぞれの親御さんが、それぞれのお子さんの所要時間を計り、縮めていくのが理想です。
──
それはまさに、坪田先生が提唱されている「子別」の導きですね。
坪田
はい、そうなんです。あまりに早期から集団のなかで競うような指導ばかりをしていると、いつまで経っても「ぼくにもできた」「私だって、やればできるんだ」という「自己効力感」が育たなくなってしまいます。
──
ああ、それはわかるような気がします。うちの子たちにも自信が欠けていると感じることがありますし。
坪田
ええ、だから「子別」がたいせつなんです。2、3日分をストップウォッチで計って平均値を割り出したあと、それを紙に書いてお子さんと共有してください。で、つぎの日から、そのタイムを短縮できるようにするんです。
──
どうやって短縮させるのでしょうか?
坪田
キッチンタイマーを使います。
──
キッチンタイマーですか?
坪田
そうです。時間がくるとアラーム音が鳴ってくれるタイマーって、お子さんにとってもわかりやすいでしょ。授業の準備をする平均タイムが6分だとしたら、「6分」でアラームが鳴るようにしておく。お子さんは鳴る前に準備を終わらせようとするはずです。
──
ああ、それなら確かに急ぐようになるかもなあ。
坪田
ただし記録更新にムキになりすぎるのはNGですよ。楽しい雰囲気のなかで楽しみながらおこなうことが最優先です。とくに「食事」や「トイレ」は、せかしすぎるのはよくありませんしね。
──
なるほど。せかしちゃいけないシーンもあるということですね。じゃあ、食べるのが遅いのはどうすればいいのでしょうか? テレビばっかり見ていて、ちっとも食事が進まないんです。
坪田
親御さんが理解しておかないといけない原則がひとつあります。何かわかりますか?
──
な、な、なんでしょう(ゴクリ)……。
所員と子ペンギンに緊張が走る……
坪田
「子どもはひとつのことにしか集中できない」という原則です。
──
ああ……。
坪田
大人であれば、テレビのニュースを聞きながら、片手でパンを食べながら、スマホでメールチェックをするなんてことが可能ですよね。でもお子さんの場合、2つ以上の動作を並行してこなすのって、まずムリなんです。
──
たしかに。うちの子はテレビを見ながらの食事でして、いつも噛むのを忘れて、画面に見入っちゃってます。
坪田
それが“本来の子どもの姿”です。だから責めないであげてくださいね。急いでほしいときには「お子さんにことわってからテレビを消す」など、メインの動作に集中できる状況をつくりだしてあげることが大事です。
──
「ことわってから消す」っていうのがポイントなんですね。テレビばかり見ていて、食べ物を口に運ばないから、頭にきていきなりテレビを消して、ケンカになったりします。
坪田
それは厳禁です。「ひとつのことしかできない」とわかっていれば、そうやって頭にくることも少なくなると思うんです。「テレビに集中する」というのは、むしろ正常な証拠なんですよ。だから、食べさせたければ、テレビを消す。ただし、冷静に消しましょう(笑)。
──
そうかあ。それが正常と言われると、なんだか救われたような気がします。

親が決めたほうがいいこと、
子どもが決めたほうがいいこと

坪田
さらに言うと、お母さんは表情から読み取れなくても、お子さん自身が「急いでいるつもり」のことってけっこう多いんです。大人から見たら急いでいるように見えないのだけど、本人は急いでる。そういうときに「早くしなさい!」と怒られると、「なんで怒られなきゃいけないんだろう?」って泣きたい気持ちになっているはずです。
──
ああ、思い当たることが。「急ぎなさい!」「だから急いでるじゃん‼」っていうケンカをいつもしています。私からすると全然急いでいるように見えないから、ついつい……。
坪田
はい、とっても気持ちはわかりますよ。お子さんとお母さんの「急ぐ」の感覚がちがうんですよね。そこでですね、動作を「テンプレ化」してあげることが効果的です。
──
テ……「テンプラ化」? 「天ぷら化」って何ですか?
坪田
「テンプレート化」です。朝の一連の行動を、可能なところまで定型化しちゃうんです。たとえば「トイレ」→「洗顔」→「食事」→「着替え」の順番をお子さんと話し合って、固定化しちゃう。自分で順番を考えなきゃいけないとなると、お子さんの負荷は増えますからね。
──
そういうテンプレ化ですか。
坪田
「不確定なこと」を減らしてあげたほうが、早く行動できるようになるんです。たとえば「歯磨きはしてもしなくてもいい」というより、「する」「しない」をはっきり決めたほうがいい。
──
歯磨きはもちろん「する」にしたいです。でも、洗顔は「しない」でかまいません。
坪田
そうですそうです。そうやって親御さんが「選択」をしてあげるといいわけです。
──
選択は親がやっていいんですか?
坪田
ぼくはそのほうがいいと思います。時間を効率よく使おうとすれば「選択と集中」がキモになってくるんです。限られたリソース(体力、能力、意志力、持ち時間)を、どこに、どれだけ割くべきか(選択)、最良の方法を選んで力を効率よく発揮する(集中)、という一連の営みは、大人にとっても難しいことでしょう?
──
ええ、聞いているだけで頭が痛くなってきました(苦笑)。
坪田
あはは。カンタンに言うと、何をやって、何をやらないか、っていうことです。これって、人生経験の浅いお子さんであれば、なおのこと決めるのは難しいでしょ。親御さんが「選択」を手伝ってあげて、お子さんが「集中」しやすい状況を、どうお膳立てしてあげられるか、それがだいじです。
──
でも「お膳立て」してあげることって、過保護にはつながりませんか?
坪田
大丈夫です。親子で意見を交わしながら「選択」をおこなえば、それは「押しつけ」にも「過保護」にもなりません。むしろそれをしないことは、「放置」になっちゃう。
──
ああ、放置ですか。
坪田
「トイレトレーニング」っていう言葉があるでしょ。赤ちゃんがオムツから卒業するためには、程度の差こそあれ、まわりの大人の見守りや伴走が絶対に必要です。大人になれば誰でもできることなので軽く見られがちですが、ほかのあらゆる生活習慣も、じつはトレーニングが必要なんです。「急ぐ」ということもそうです。だからタイムを計って、それを更新させるようなトレーニングをする必要がある。それをすっ飛ばして「早くして!」とせかすのは、お子さんにとって酷なことなんですよ。
子ペンギンが「そうだそうだ!」と言ってます
──
はい……、言われてみればおっしゃる通りです。でも頭でわかっても、わが子に伴走するのって疲れてしまいそうです。忍耐力もないですし。
坪田
いまの親御さんはみなさんお忙しいから、仕方ありませんよ。お子さんに伴走しようとするとき、重要になってくるのは、忍耐力よりもむしろ「リフレーミング」です。
──
り、りふれーみんぐ?
坪田
リフレーミングっていうのは、心理学用語のひとつです。めちゃめちゃわかりやすくいうと「見方や考え方をガラリと変えること」を言います。「急いでくれないわが子にイライラする」と感情に流されるのではなく、ストップウォッチで計る。そしてタイムを縮めることを、わが子と楽しんじゃう。こうやってうまくリフレーミングをすると、朝の「イライラ時間」が「めちゃめちゃクリエイティブでおもしろい瞬間」に変わるじゃないですか。
──
あっ、そうかもしれません! 義務でタイムを計るのではなくて、楽しむためにやるわけですね。
坪田
そうです! この連載では、さまざまなリフレーミングの方法をお伝えできればと計画しています。子育ての渦中にある親御さんにとって、「見方や考え方をガラリと変えること」は、至難のワザですから。
──
はい、私もいままで目先のことしか考えていませんでした。目の前のことをしのぐだけの“自転車操業育児”をくり返すばかりで……。さっそく明日の朝から子どもの行動のタイムを計ってみますね。坪田先生、ありがとうございます!
坪田
はい! ぜひやってみてください! 意外な発見があるかもしれませんよ。
ふむふむ

今日のまとめ
・むやみに「早くしなさい」と言わない
・ひとつひとつの「行動の時間」を計ってみる
・「キッチンタイマー」で楽しみながら時間短縮する
・何をやって、何をやらないかは「親」が決める
・ガマンするのではなく、「リフレーミング」する

(次回の不都合は「片づけない」です)

撮影:森鷹博/文:山守麻衣
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