お絵かき講座③女の子をかわいく描きたい!

2017.10.30
「子どもに絵を描いてとせがまれるけれど、うまく描けません。センスのない私でもうまくなる方法はありますか?」

そんな2児の母・清水さん(35歳)の悩みを解決するために、美大出身でイラストレーターの戸田江美先生をお招きしてお届けする「お絵かき講座」。今回でいよいよ最終回です。

最後のお題は、清水さんが娘さんから「ママ、描いて〜」とよくせがまれる「女の子」。先生いわく、ポイントは「動きをつけること」だそうです。でも、それってなんだか難しそう・・・。清水さんはかわいく描けるようになったのでしょうか? 聞き手は、所員の池田です。
きょうの先生
戸田江美(とだ・えみ)さん
合同会社「SKY PICNIC」所属のグラフィック/Webデザイナー。武蔵野美術大学卒業。美大生時代からコーポレートサイトデザインを複数制作したのち、「面白法人カヤック」にてゲームUIデザイナーを経験。日本人若手写真家として選抜され、NEW YORK ART BOOK FAIRをはじめとした5か国9都市のアートブックフェアに出品。イギリスと日本共同主催のフォトコンテスト「Photosbook show」に入賞しブライトンにて展示されるなど、国内外で活動している。東京都荒川区のトダビューハイツの大家。落語が好きで寄席通いもしている。

「人間を描くときに大事なこと」って?

池田
前回、先生は清水さんのイラストを見て、「動きを出すと、さらによくなる」というアドバイスをされてましたね。具体的には、どうすればいいですか? 人の動きを描くのって、すごく難しい気がするんですけど……。
戸田
動きのある人を描くときに大事なのは、「隠れている部分も描くこと」です。
清水
隠れている部分も描く?
戸田
はい。そのほうが、最初はうまく描けるんじゃないかなあ。
清水
どういうふうにしたらいいんでしょうか?
戸田
たとえばね、清水さんの絵の、ウエストからひざあたりまでをよーく見てください。スカートに隠れた足部分が、一体どういうふうに曲がっているのかな? って思っちゃいませんか。
清水さんの「アイドル」
清水
ほんとだ! 足がありえない位置から出てきてる……。
戸田
そうそう。洋服を描くんだ、ということに一生懸命になっちゃうと、洋服を描いたところでホッとして、なかに隠れている足のことまでは、なかなか考えられなくなっちゃいますよね。
清水
そう! そう! そうなんです。先生わかってくださってうれしい……。スカートをふわっとさせないと、また娘に怒られちゃう、って思ってたんです。スカートに時間がかかったので、急がなくちゃと思って、足のことはどうでもよくなっちゃいました。
戸田
その「急がなくちゃ」もポイントかもしれません。絵って、すごくうまい人でも、そんなに「サササッ」と描けるものじゃないんですよ。
清水
えっ! うまい人は数分でササッと描いているんじゃないんですか? 消しゴムなんかも使わないで。私、それに憧れてるんです。
戸田
すごくうまい人は別ですけど、美大生でも、イラストレーターでも、初めて描くモチーフを一発でうまく描けるなんてことはほとんどないです。みんな、ちょっとずつ直しながら、コツコツ描いているんですよ。だから、はやく描こうとしなくて大丈夫です!
先生も消しゴムをよく使っています
清水
そうだったんだ……。
戸田
そうです。だから、ゆっくり、スカートのなかの足も、「こうなるはず」という線をスカートの上に描いてみたらいいんです。あとで消せばいいんですから。
清水
そっかー! あとで消せばいいんですもんね。わたし、こんなこともわかってなかった……。
池田
たしかに、消せばいいって意外に気づきませんね。
戸田
うん、こわがらなくていいと思います。楽しく描けるほうがいいですよ! さてじゃあ、描いてみましょうか。
清水
はいっ!

上手と下手の違いは、「線の濃さ」だった!

戸田
やっぱりまず最初に体全体の「アタリ」をうすーく描いていきます。
池田
えーっと、アタリというのは、おおまかな位置とか、バランスを決めるときの目安になる線のことでしたよね。
戸田
そうそう。それがあるだけで、失敗しづらくなるんです。あと、失敗しないコツとしては、絵の上手な人を見ていると、「線の濃さ」を上手に使い分けているんですよね。まずうすく描いてみて、本番の線は濃く描く。
清水
あっ、最初は薄く描いて、うまく描けたらなぞってるってことですか?
戸田
そうそう! そういうことです。
清水
そうだったんだー。私は毎回が一発勝負、毎回が本番でした。
戸田
かっこいいですけどね(笑)。まずは輪郭と、前髪のアタリを描いていきます。
うすく、顔の輪郭から描きます
池田
あのー、いきなりすみません。人間を描くときに、「目から描く」という方も多いように思うんですが、先生はどうして輪郭から描くんですか?
戸田
慣れるまではとくに、輪郭から描いたほうがバランスがとりやすいと思うんです。目から描くと、輪郭が小さすぎて目がやたら離れてしまったり、あごと目の位置がずれちゃったりするかなって……。
池田
あっ、なるほど。わたしたちは初心者ですし、できるだけリスクが少ないほうがいいですね。
戸田
あと、わたしは、目を描くときにすごくテンションが上がるので、体も描いてから、最後の最後のお楽しみにとっておきます。そうすると、全身を描き終わるまで、ずっと楽しくできるので。
清水
たしかに! さっき1人で描いてみたときは、女の子の顔を完成させちゃってから体を描いたので、体がなんかどうでもよくなっちゃったんです。
戸田
そうなんですよね。輪郭が描けたら、つぎに首、肩……と描いていきます。女の子は首を細く描くと、きゃしゃでかわいくなりますね。
真剣に描く戸田先生
清水
首は細く……なるほど。

女の子らしくなる「肩」「ウエスト」「足」のコツ

戸田
あと、肩は難しいので要注意! 失敗すると関節がはずれているみたいに見えちゃうので、動きがあるときは、洋服のなかの腕も描いて確認するのがよさそうです。
ソデの下に、見えない「肩」のアタリを描いています
戸田
肩は、広いと男っぽくなっちゃいます。そして、大事なのは肩を平行にしないこと。平行だといかつくなっちゃうのと、「動き」がなくなっちゃいます。肩がかけたら、ウエストにいきましょう。きゅっとしまっていると女の子らしいです。
ここも、まだうすく、アタリをつけるだけ
清水
ウエストの位置って、どのあたりにすればいいですか?
戸田
首のつけねから、顔一個分くらいですかね。この子はスタイルがいいはずなので、普通の人よりは少し短めです。
清水
そこはすこしデフォルメしていいんですね。
戸田
腕の長さも、アタリをつけておくといいですね。
腕の長さのアタリをつける
池田
ほんとだ。アタリは間違えたら書き直せばいいんですもんね。安心だなあ。
戸田
わたし、めっちゃ消しゴム使いますよ。使わないのはカッコいいですけど、最初はぜんぜん気にしなくていいと思います。つぎは足ですね。アイドルらしくAラインのふわっとしたスカートを描きます。
Aラインスカート
池田
あ、たしかにアイドルっぽい洋服。こういうところで印象が変わりそうですね。
戸田
つぎに足です。ここはスカートのなかに足を描いてみて、不自然な動きにならないか気をつけます。
スカートのなかの足を描くことで、こんなにわかりやすく!
清水
そうか、ここを描いておけばいいのか……。そして消せばいいんだ……。
戸田
そうそう! そのほうが簡単ですよね。……よし、全身のアタリができました! ここからは、アタリにそって、濃い目に描き足していきましょう。
前髪の多さでも顔の大きさが決まるので、まずは前髪を描くそう
少しずつ描き足していきます
なかの足が上に動くので、スカートも少しだけ右に上がります
何度も消しゴムを使って大丈夫!
清水
先生、いまわたしは足を描いているんですけど、バランスがうまくいかないです……。
戸田
足の長さ、難しいですよね。スタイルが決まっちゃいますし、左右の長さもそろえないといけないし。だいたい、股からひざ:ひざからかかと=3:5くらい。長さを左右そろえたいので、こうやって測りながら描くとうまくいきます。
右足の長さを測って……
左足の長さをそろえていきます
清水
あ、そうか! 測ってそろえればいいんだ! ……本当だ、うまく描けました!
手を描くときは、肩の関節とずれていないかに注意
左右の腕の長さも、しっかりそろえて
戸田
ここまでできたら、お楽しみの顔を描きます! まずは、顔の中心の鼻筋を描いておくと、顔のバランスをしっかり取れます。
鼻筋と鼻の下のアタリを付けておくと、顔のバランスがくずれません
清水
そっかー、いっつも目から描いてた。それで、目が大きくなりすぎて、あごがすごく小さくなっちゃったりしてたんですよね……。
池田
めっちゃわかります。それであごを描き足すと、なんか変になるんですよね~! わかりますよっ!
清水
そう! そう!(盛り上がる2人)
池田
あ、盛り上がっている間に、先生はちゃくちゃくとすすめてらっしゃった。
戸田
つぎはいよいよ目を描きます! 前髪をのぞいた顔のタテ長さの1/3くらいかなあ。ここはお好みですね。目の位置をどこにするかで、性格が変わってしまうので、じっくり描きましょう。
目の大きさは、顔の出ている部分の1/3くらいを目安に
清水
やっぱり目が難しい……ほかにコツってありますか?
戸田
うーん、黒目を大きくするといいと思います。あっ、片目はウインクさせると、楽ちんですね。そうすれば描かなくていいから。
清水
それはいい裏ワザですね!(笑)
戸田
楽したことをお子さんに見抜かれないようにしないといけないですけど(笑)。まゆげは、元気な表情になるように上がりぎみに描いてみましょう。ほんとうは髪の毛で隠れて見えないんですけど、上から描いちゃってOKです。
まゆげは髪の上から描いてOK!
池田
そっか、そこは絵なので、かならずしも忠実にする必要がないんですね。そのほうが、表情がでますもんね。
戸田
最後に、口を描きます。鼻と口は近いほうがキュートな印象になるかなと思います。
鼻と口は近づけるとキュートになる
戸田
あと、頭のトップの部分。ここもバランスをとるのに重要なので、最後にしっかり修正します。
最後の最後に、頭のてっぺんのバランスをとる
戸田
よし! 完成しました〜! どうでしょうか?
先生の絵、完成!
池田
おおー!!!! すごい! めっちゃ動きがある!
戸田
ふだんあまりこういう絵描かないので難しかった……。できあがってほっとしました。
清水
わたしもできました!!
戸田
見せて! 見せて!
清水
これです。前よりだいぶうまくなった……かな?
清水さんのAFTER
戸田
おお! 関節とかもしっかりしているじゃないですか! ビフォーとくらべると、動きもすごく出てる~! 清水さんすごーい!
清水さんのBEFORE。バランスがAFTERとぜんぜんちがいます
池田
これで、「柴犬」と「女の子」、どちらも描きあがりました。清水さん、いかがでしたか?
清水
はじめてこんなにじょうずに絵が描けました! これなら、娘に描き直しさせられずにすみそうです。何よりも、自分は絵を描くのを怖がっていて、ササッと適当に描いて直さなかったことが悪いんだってわかりました……。先生、本当にありがとうございました!!
戸田
それはよかったです〜! ああ、ほっとしました。
池田
あのう、ちょっとズルするようで恐縮なんですけど、絵を描くときに使う画材でも、うまさが変わったりしますか?
戸田
HBかBの鉛筆を使うと、線も柔らかくなるし描きやすいと思います。あと、芯をとがらせすぎないで、少し丸く削っておくといいと思いますよ〜。わたしが好きなのは、「PALOMINO BLACKWING602」という鉛筆です。
先生のペンケースの中身。右端がおすすめの鉛筆です
池田
先生、今日は本当にありがとうございました! 清水さんも、これで娘さんに喜んでもらえる絵が描けますね!
清水
ほんとうにありがとうございました。さっそく家に帰って、娘と一緒に絵を描こうと思います!
まとめ
1 濃い線を描く前に、薄い線で書いてバランスを見る
2 洋服に隠れているところにも、うすく体を描いて、関節がずれていないかチェック!
3 手足の長さは、手で測ると左右がしっかりそろう
4 顔は中心の鼻筋から描く
5 はやく描こう、一度で描こうと思いすぎない。消しゴムを使う!

おまけ
仕事で使うちょっとしたふせんにも、こんな絵を描けたらいいですよね〜! 先生が特別に見本を描いてくださったので、ぜひまねしてみてください。

撮影:鈴木江実子/文:池田(所員)
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