冬こそ、かき氷!【インタビュー・前編】

2017.12.08
「冬こそ、かき氷を食べに行こうよ」と誘われたら、あなたはどう思いますか?「寒いよ」とか「そもそも、食べられるお店あるの?」……そんなふうに思いますよね。でも、じつは、あなたの知らない、「冬かき氷」の魅惑の世界があるんです。

お話を聞かせてくれたのは、大野美和さん。なんと、年間500杯もかき氷を食べに行き、月に一度は、電車で2時間かけて大好きなお店に通うというツワモノ。そんな大野さんに、おいしいかき氷を食べながら、冬のかき氷の魅力を教えてもらいました! 聞き手は、所員の池田です。


大野美和(おおの・みわ)さん
1976年生まれ。高知県出身。中央大学商学部卒。PC系の出版社「アスキー」を経て別の出版社へ。テレビ誌、まんが誌を経て現在は辞書の編集。趣味は旅行と食べること。直近の45ヶ国目はウズベキスタンを訪問。食べることも好きで、貯金をすべて使い果たし、クレジットカードが止まったことも。胃の中にフェラーリが入っている。

「かき氷は、冬こそがおいしい」!?

──
今日は、お時間をいただきありがとうございます。
大野
こちらこそ。かき氷の話は、いつか誰かに語りたいと思ってたんですけど、まさかこんな機会が来るなんて思ってもみなかったです。
──
この大野さん、かき氷が好きすぎるんです。大野さんのインスタグラムに、ずっと同じ構図でかき氷の写真があがりつづけているのを見て、「なんだこれは!」と思ったんです。
大野さんのインスタグラムの写真たち。数々のかき氷が!
──
かき氷の写真だけで、何枚くらいあるんですか?
大野
うーん……700枚くらいでしょうか。
ぺんたもびっくり!
──
これまで食べたものが、全部ここに載っているんですか?
大野
いえいえ、食べたものを全部載せているわけではないんです。
──
これで全部じゃないんだ! すごいなあ。これまでどのくらい食べてきたんですか?
大野
うーん。一回で、2杯か3杯は食べるから……たぶん年間500杯くらい食べてるんじゃないでしょうか。
──
年間500杯! っていうか、かき氷を「1杯、2杯」って数えるってことを初めて知りました……。「2杯目」というものを食べたことがないから、数えたことがなかった。
大野
あはは! たしかにそうですよね。「あの人、2杯食べてる……」って、周囲がざわざわすることがあります。
──
あのう、すごく馬鹿な質問かもしれないんですが、かき氷を2杯食べるって、寒くないんですか?
大野
寒いです(キッパリ)
──
あっ、やっぱり寒いんですね!
大野
寒いんだけどね、ふるえながらでも食べてしまうんです。すっごい着込んで、あったかくして、震えながら食べる。
──
ふるえながら!? な、なんでそこまで?
大野
うーん。たとえば、ホットコーヒーと同じなんです。ホットコーヒーが好きな人は、暑い夏であっても、おいしいから飲みますよね。それと同じ感覚ですかね。
──
そんなにもかき氷が好きなんですね?
大野
そうですね。やっぱり、雪が降ったら、練乳をもって走りだしたくなります。
──
えっ、それは、雪に練乳かけて食べるために?
大野
お察しのとおり。実際、おいしかったです。
──
えーっと……それは、何歳の時ですか?
大野
いつだろう? 4年くらい前?
──
けっこう最近だ!
大野
家族には止められましたけど、やらずにはいられなかったです。
──
止められない気持ち!!!
大野
もうね、ずっと初恋みたいな感じです。
──
え……かき氷に?
大野
はい、かき氷に。
──
こ、これはヤバい人の話を聞くことになったぞ……! えっと、大野さんがかき氷にハマりだしたのには、何かきっかけがあったんですか?
大野
はじめは、かき氷といえば、お祭りで買える、あのがりがりした氷しか知らなかったんですよ。
──
うん、うん。普通はそうですよね。
大野
でも、ある夏の暑い日に、新宿の「追分だんご本舗」っていうお団子屋さんに行ったんです。暑かったから、なんとなくメニューにあったかき氷を食べてみたら、衝撃だった。初めて、「ふわふわ」のかき氷に出会ったんですよ。
「追分だんご本舗」のかき氷
──
「ふわふわのかき氷」!? そんなのがあるんですか? もしかして、大野さんの食べてるかき氷と、私の思い浮かべているものって、ちがうのかなあ。
大野
たぶんね、ぜんぜん! 違うと思うの! ぜひ食べてみてほしい!
──
そっ、そんなに!?
大野
そんなに、です!! それで、「かき氷ってすごいんだよ」「おいしいんだよ」っていろんな人に言ってたら、「ほかにも、すごいお店があるよ」って教えてくれた人がいたんです。
──
かき氷の賢者が導いてきた! どこを教えてくれたんですか?
大野
神奈川にある「埜庵(のあん)」というお店です。この「埜庵」に行ったことが、深くはまったきっかけになったかなあ。
かき氷を前に幸せそうな大野さん

カレーかき氷に野菜かき氷……かき氷は進化している!

──
埜庵って、聞いたことあります。10人とか並んでるような、すごい人気のかき氷屋さんですよね?
大野
10人なんてもんじゃないんですよ!
──
えっ。何人くらい並んでるんですか?
大野
夏場だと待ってる人が多すぎて整理券だと思います。かき氷界の行列はすごくて、別の店では待っている間に熱中症で救急車が来た、なんて何度か聞いたことがあります。
──
ええええっ、かき氷ってそんなに人気なんですね!!
大野
私がすごく好きなお店のひとつに「慈げん(じげん)」というところがあるんです。そこは11:30にオープンなんですけど、夏の土日だと、整理券が朝の7:30とかになくなるんじゃないかな。
大野
えっ、11:30に始まるお店の整理券が7:30になくなる? 何時から配ってるんですか?
大野
朝9時半かな。朝からたくさんならんでると、もう、朝7時の時点で、ツイッターに「今向かっている人がいらっしゃったら、これからでは間に合いません」っていうお知らせが出たりするんです。お店は埼玉県の熊谷にあるので、1時間以上かけて行くんですけど、途中の電車で涙をのんだこともあります……。
──
す、すごい……。なぜ、そんなに人気なんでしょう?
大野
私もそうですが、同じお店に何度も何度も行く人が多いんです。全国から食べに行く人が集まるし、かつ近所のマニアは毎日、毎週食べに行くような人もいます。
──
毎日? 同じかき氷を毎日食べるってことですか?
大野
「慈げん」さんは、一日の中でも、メニューが変わったりするんです。一瞬しか出ないメニューがたくさんあるから、その「巡り合い」にかけて、みんなが足繁く通うんです。たしかに遠いし、大変なんだけど、もうすべてが吹き飛ぶくらいおいしいの。
──
もはや想像がつかない……。かき氷のどんなおいしさが、そんなにみんなを惹きつけるんですか?
大野
価値観を変えてくれるんだと思います。
──
価値観……?
大野
冬場は、かき氷屋さんがメニュー開発に力を入れてくる季節なんです。メニューが、夏場よりも断然おもしろいんです! だから、「ううん、この店は酸味がいいな、こっちはクリームとのハーモニーできたか、こっちは完熟素材勝負か。……え! この店は、パルミジャーノ? ごぼう茶? まさかの生卵黄をつかってきた!?」とか、ほんとに毎回驚くんです。
──
なるほど~! 混みが落ち着く冬だからこそ、ほんとうの力を出せるようになるんですね。
大野
そうそう、そうなんです。しかも、全部ちゃんとおいしい。栗みたいな「人気があって懐の広い素材(いろんなものが合う食材)」になると、もう全かき氷屋で大喜利状態ですよ!
──
大喜利! 「こうきたか」とみんなをうならせるかき氷を、冬のかき氷屋さんはこぞって開発するってことなんですね!
大野
そうです! 夏よりも冬のかき氷をおすすめする理由は他にもあって、並ばないでいいこともそうですけど、氷の削りがていねいで夏よりフワフワなことが多いんです。あと、クリスマスやバレンタインのイベントメニューもあるし。
「慈げん」さんの2016年クリスマス氷
「氷舎mamatoko」さんの2016年クリスマス氷
──
ゴクリ。冬のかき氷、食べたくなってきた〜!!
大野
それからね、「こんなかき氷があるんだ!」っていうようなものも出るんです。たとえば、「慈げん」で巡りあって感動したのが、「カレーかき氷」。
──
カ、カ、カレー!? カレーが、かき氷になるんですか?
「慈げん」さんのカレーかき氷。限定メニューです。1ヵ月あるのか半日でなくなるのかは慈げんさんの気分次第
大野
これはほんとうにおいしかった! いってみれば、スープカレーみたいなものです。
脂は使ってなくて、マンゴーピューレとかマンゴーチャツネとかを使った甘酸っぱいカレーなんです。
──
えーっと、甘いんですね……?
大野
そうなんです。甘口の冷製スープカレーという感じなんです。レーズンやパイナップルといった南国の果物(具)とスパイシーなルーを氷と一緒に口に入れると、軽くてみずみずしいカレーのおいしさが口いっぱいにひろがるの!
──
それは、氷が、カレーにおけるライスの役割を果たしているってことですか? うまみを口の中に広げてくれるというか。
大野
そうなんですよ!! 氷は、米と同じです。だから、毎日食べられるんですよ!
──
な、なるほど。(米と同じって……)
大野
ほかにも、「慈げん」さんでは、野菜にマヨネーズのかき氷というのがでていたこともあります。
「慈げん」さんの、果物と野菜とマヨネーズ。限定なので毎日はありません
──
えっ、野菜でしょ? かき氷に、野菜でいいんですか?
大野
野菜のかき氷っていうのは、じつはけっこうよくあるんです。
──
どんな野菜が、どんなふうに乗ってるんですか…? 想像がつかない……。
大野
そのまま乗ってるものもあるし、ピューレ状になってる時もあります。トマトやカボチャ、ナス、セロリなんかのかき氷もありますよ。カボチャはわりと一般的です。
──
うーん。私はいま、わかりかけたかき氷の世界が、また遠のいたような気が……どういうことなの……。
大野
そう、想像がつかないですよね。でも、そこに楽しさがあるんです! たとえば「桃のかき氷」って言われたら、味が想像できますよね? でも、セロリのかき氷だって言われたら、「えっ、どんな味?」ってすごくワクワクする。
──
たしかに今、この時代に生きてて、「どういう味なんだろう?」って思う事があまりないかも……。他にも、私の知らないかき氷の世界があるんでしょうか?
大野
最近は、この「髷(まげ)酒氷」がヒットでした。
「ニッコリ~ナ」さんの髷(まげ)酒氷。限定なので毎日はありません
──
なにこれ!
大野
武士の「ちょん髷(まげ)」に見立てて、酒粕クリームかき氷の上に水ようかんが乗ってるんです。
──
どうして落ちないんですか?
大野
たぶん、氷に乗っかるように、ものすごい計算がされているんだと思うんです。ぎりぎりの重さと粘度を計算してあるはず。しかもこれ、水ようかんとしても、すごくおいしいんです。
──
す、すごい芸術! これ、いつでも食べられるんですか?
大野
それが、これは食べられないんです。「ニッコリ~ナ」っていう、ひと夏の間だけでなくなってしまった、伝説のお店があって。今、たまにその人が削るってなると、朝からみんながオープン前にリストに名前を書きに行くような方がいて、これはその人の削りなんです。
──
かき氷は、だれが削るか、が重要なんですか?
大野
そうなんです! 同じ機械をつかって削るからといって、同じ味には絶対ならないんです。その機械の刃の角度とか、どこまで温度を上げて氷をゆるめるかとか、かけるシロップによって削り方を変えるかとか……それはもうお店、その人によって違うので、できあがりがまったく変わるんです。だから、「この人がいる日」っていうのを狙っていくような店もあるんですよ。

氷を食べているんじゃなく、空気を食べている!

──
食べたとき、どんなふうに違うんですか?
大野
ふわっとするというか……あのね、かき氷は、氷を食べてるんじゃなくて、空気を食べてると思うんです。
──
えっ!? ちょ、ちょっと、くわしく聞かせてください。
大野
間の空気の入り方によって、口当たりや溶け方がまったく違うんです。個人的には、氷がみっちりとつまっているものより、ほどよく空気を含んだ口触りのいい氷のほうが、断然おいしいと思ってるんです。
──
ああ、なるほど! だから、削り方で変わるっていうことなんですね。
大野
あとね、お店によって、「こってりしている」「あっさりしている」っていう得意分野の違いがあるんですよ。
──
こってりしている? かき氷が?
大野
クリームがかかっているような、こういうかき氷がありますよね。
「氷舎mamatoko」 さんの「ほうじ茶あずき」
大野
これは、クリームが重いので、まずこれを支えるために厚めの削りにするらしいんです。それからシロップとの相性で厚めの削りの方が良い。たとえばパスタで言うと、カルボナーラは平打ちで太麺のパスタをつかいますよね。なぜなら、麺にソースが絡みつく量がすごく多いし、その強いソースに負けないためには太いパスタじゃないと太刀打ちできない。
──
あっ、なるほど。こういうもったりしたクリームみたいものに合わせるには、厚い氷じゃないといけないんですね。それで、かき氷の味もこってりするんですか?
大野
そうなの! シェイクみたいなこってり味ですよ。
──
まじか。
大野
それと逆で、繊細な、水っぽいシロップのかき氷は、本当に削りが上手じゃないとおいしくならないと思うんです。夏のフルーツをかき氷にするのは、実はすごく難しいんです。
──
どうしてですか?
大野
意識して食べてみてほしいんですけど、本物のスイカとか梨とかメロンとかって、「スイカ味のアイス」とか「メロン味のガム」よりもすごく味と香りが弱い。でも、そのフルーツそのものでシロップを使って、氷にかけても負けない味にしないといけないから、すごく難しいと思うんです。だって、絶対に水っぽくて弱い味になっちゃう。
──
そうかぁ。氷にかけるってことは、口の中で水と混ぜてるのと同じことですものね。
大野
そうなんです。スイカとたっぷりの水を混ぜておいしく飲ませるなんて、すごい至難の業でしょう。
──
確かにそうですね! 市販のかき氷のシロップっていうのは、ものすごく味が濃いですもんね。でも、天然のフルーツをつかったシロップでは、そうはいかない。
大野
だから、おいしいフルーツのかき氷を作ってるっていうのは、すごいことなんです。
ぺんたも「すごいことなんだねぇ」と感心です!
──
なるほど!
大野
そのシロップのわざと、削りのワザが合わさって、おいしいかき氷になるんです。
──
氷とシロップの掛け算なんですね! すごいなあ。そんなふうに考えてかき氷を食べたこと、なかったです。
大野
そうなんです! シロップがおいしいお店もあるし、氷がおいしいお店もあるし、あと、器とかの雰囲気がおいしいお店もあると思うんです。そんなふうに、いろんな楽しみかたができるんです!
──
わあ~、いますぐ食べてみたい! でも、気になったことがひとつあって。かき氷の食べかたに、お作法ってあるんですか? なんか、すぐ溶けちゃうし、崩れちゃうし、お店でキレイにおいしく食べるのは難しそうな気がしたんですけど……
大野
ありますよ。たとえばね……

後編では、大野さんに、おいしい冬のかき氷の食べかたを教わります!

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取材させていただいたお店
氷舎mamatoko
東京都中野区弥生町3-7-9
好きが高じてかき氷店を開いてしまった店主は、年間1500杯以上食べるかき氷の女王。削るのが楽しくて仕方ない職人肌。人見知りの気があるので、あまり急に話しかけないこと。年間通して食べられる酒粕クリーム氷は必食。でもなんでもおいしいです

写真/鈴木江美子(追分だんご本舗、慈げん、ニッコリーナ、氷舎mamatokoのクリスマス氷の写真以外)
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