ジャガイモのホクホク、キッチリ自由自在!

2017.10.12
カラダにいいから、という理由で毎日食べている野菜。でも、そのひとつひとつをしっかり味わっているかというとギモンが残ります。「野菜をもっとおいしく味わいたい!」そんな想いを胸に『ペンギン飛行機製作所』の所長の黒川は、以前から親交の深い石川範子さんの元を訪ねました。

石川さんは、長年、NHKの人気番組『ガッテン!』の料理放送回の指揮をとり、数多くの一流料理人からの信頼もあつい、食のスペシャリストです。

「野菜って、調理の仕方を変えれば、ほんとはもっとおいしいんですよ!」と石川さん。ガッテンならではの科学的な視点と、双子をもつ忙しい母としての視点で、野菜の「不都合」を解決して「うれしい」に変えるワザの数々を教えてくださいました。今回取り上げるのは「ジャガイモ」です。
石川範子さん(いしかわ・のりこ)
1972年生まれ。民放番組のディレクターを経て、NHK『ガッテン!』で「食」専門ディレクターとして関わり19年。多くの料理放送回の製作において中心的役割を果たし、放送後に大反響を呼ぶこと多数。科学の視点を武器に、「どうすればおいしくなるのか?」を追究しつづけるその姿に、多くの一流料理人たちが信頼を寄せている。双子の母でもある。

目次
第1回 ブロッコリーがベチャッとする
第2回 ブロッコリーの鮮度を保ちたい
第3回 ジャガイモのホクホク、キッチリ自由自在
第4回 おいしい大根に出会えない
第5回 里いもの皮をむくのがめんどう
第6回 レンコンってどんな味だろ?
第7回 甘いトマトの見分け方って?

石川
黒川さん、好きな野菜ナンバーワンがジャガイモなんですよね?
黒川
はい、そうなんです。昔、ファーストキッチンでぼくが一心不乱にポテトを食べる姿を見て、友だちが「まるで“ポテト食べマシーン”だね」と……。
石川
ポテト食べマシーン(笑)。まあ、おいしいですもんね、ファーストキッチン。
黒川
子どもってスーパーに行くと、もう条件反射的にチョコレートとかを買うじゃないですか。ぼくはあんな感じで、ジャガイモをカゴに入れるんです。レジについてカゴを置いたときにはじめて「あ、今日もジャガイモ買ったんだ」って気づくことがけっこうありますよ。
石川
ええ! 無意識でジャガイモを買う人がこの世にいるんですね!
黒川
家にジャガイモのストックがないと不安になるんですよ。積ん読ならぬ“積んジャガ”です(笑)。もちろんちゃんと食べますよ。
石川
筋金入りだなあ。
黒川
石川さんにとって、ジャガイモはどんな野菜ですか?
石川
好きですよ。わが家では、マッシュポテトとポテトサラダが定番です。肉ジャガは多くの家庭で定番料理ですよね。
黒川
ええ、肉ジャガはまさにおふくろの味ですよね。それについては昔から思っていたことがあって、石川さんに聞いてみたいことがあるんです。
石川
なんですか?
黒川
子どものころ、友だちの家でお母さんが作ってくれた肉ジャガを食べると、「あ、うちのと、なんかちがう」って思った記憶があるんです。
石川
はい、家庭によって味つけが微妙にちがいますものね。だからこそ“おふくろの味”なんでしょうね。
黒川
その“なんかちがう”の“なんか”ってなんなのでしょうか? そのちがいが“おふくろの味の正体”なのかと。
石川
たいていは砂糖、みりん、醤油で作りますけど、その分量というか比率が家庭によってまちまちですよね。これが味を変えているのだとは思います。でも、たぶん、もっと決定的なちがいはほかにあるかもしれませんね。
黒川
おお、なんでしょうか?
石川
ジャガイモの“かたさ”ではないかと。
黒川
あーーー。
石川
家庭によって、すごくホクホクだったり、ややホクホクだったり、わりとキッチリだったりするでしょ。
黒川
ほんとですね。うちは、わりとキッチリ系だった気がします。
石川
うちは、ホクホク系だったんですよ。だから、自分が作るときもホクホク系です。
黒川
食の好みって、“味”だけではなくて、“かたさ”もありますよね。その食材に対してどれくらいの歯ごたえをちょうどいいと感じるか、っていうのは人によってちがいますものね。ぼく、プリンもなめらかじゃなくて、キッチリがいいんです。
石川
ああ、プリンもたしかに好みが分かれますね。私は、なめらか系が好きだものなあ。
黒川
石川さんもかたいプリンが好きだったら、かたく握手するところだったんだけどなあ(笑)。
石川
あはは。ジャガイモの場合は、おもに男爵とメークインの2種類があって、肉ジャガの場合は、ホクホク系が好きなら男爵、キッチリ系なら煮崩れしにくいメークインにするのが一般的ですよね。
黒川
用途によって、種類を使い分ければいいわけですね。
石川
それがね、じつはそうとも言えないんです。
黒川
え? そうなんですか?
石川
同じ品種を使えば、同じできあがりになるかというと、そうとは限りません。
黒川
男爵を使えばかならずホクホクになるわけじゃないんですか?
石川
ジャガイモに含まれるでんぷんの量に個体差があって、これがやわらかさに関係しています。でんぷんの多いものはホクホク系、少ないものはキッチリ系です。
黒川
へー、そうなんですか! あ、でも石川さん、それじゃあ調理するまでわからないっていうことですか?
石川
そうくると思いました(笑)。調理する前にわかる方法がありますよ。
黒川
さすが。教えてください。
石川
塩水に浮かべてみるんです。ボウルに水をたっぷり入れて、塩をその12%くらい入れて食塩水にします。たとえば500ミリリットルの水なら、塩を60グラムくらい。でんぷんの多いホクホク系は沈み、でんぷんの少ないキッチリ系は浮きますよ。ほら、こんな感じ。
ほんとに沈むものと浮くものがある! 左がホクホク系、右がキッチリ系
黒川
わあ、ほんとだ!
石川
沈んだジャガイモでホクホク系の肉ジャガを作り、浮いたもので豚肉とジャガイモのシャキシャキ炒めを作ったりするといいですよ。
黒川
いいですね。食感のちがいを楽しめる。さっそく、家の積んジャガをためしてみようかな(笑)。
石川
ぜひ、やってみてください。
黒川
はい!

ジャガイモは茹でるか、レンジか

黒川
石川家では、マッシュポテトやポテトサラダが多いということでしたけど、お子さんがお好きなんですか?
石川
ええ、私はこったレシピをつくるわけじゃなくて、食材そのものを食べさせたいから、マッシュポテトとかポテトサラダが多いんです。子どもたちもむしゃむしゃ食べてます。
黒川
なにか特別なつくり方というか、極意みたいなものはありますか?
石川
極意というほどのことはないですよ。あ、ひとつ言えるとしたら、茹でないことですかね。
黒川
え? 下茹でしないんですか?
石川
ええ、下茹での代わりにレンジで加熱します。
黒川
レンジですか。なぜ、茹でずに、レンジで加熱するのでしょうか?
石川
食材を加熱するときに、茹でるか、電子レンジでチンするか、どちらにすべきか、っていう話なんです。お湯で茹でると水気が「飛ばない」。電子レンジでチンすると水気が「飛ぶ」。他にもいろいろなちがいがあるけれど、とにかく、水分が飛ぶか飛ばないかというちがいがある。
黒川
ジャガイモは茹でずに、チンするということは、ジャガイモの水気は飛んでいい、と考えているということですか?
石川
そうです。たいていの野菜では、電子レンジは使いません。水分が飛んじゃうから。レンジの「不都合」って、これに尽きるんです。カラカラになっちゃうの。なかに入れて、ボタンを押せば加熱できるわけですから、すばらしく便利なんだけど、水分が飛んじゃう。だから、たいていの野菜でこれをやるとおいしくなくなります。でも……
黒川
ジャガイモはちがうんですね?
石川
はい、ジャガイモだけはレンジがオススメです。というのは、ジャガイモって水分が増えるとまずくなっちゃうんです。ジャガイモはでんぷんですからね、茹でれば茹でるほど水っぽくなる。だから、レンジを使って、水分を飛ばしたほうがおいしくなります。それから、茹でるデメリットはほかにもありますよ。
黒川
なんですか?
石川
香りです。
黒川
香り?
石川
ええ、茹でるとジャガイモの香りが薄くなってしまうんです。ほら、ジャガバターとかって蒸したときのほうが香りを強く感じるでしょ。
黒川
なるほど。他の野菜に対しては水分が飛ぶっていう電子レンジの「不都合」も、ジャガイモではむしろ「うれしい」に変わるわけですね!
石川
そうなんです。だから、マッシュポテトやポテトサラダをつくるときはレンジで加熱します。600ワットで6分くらい加熱するといいですよ。やってみますね。

〈石川流 電子レンジ加熱の方法〉

まず、ぐるっと一周切り込みを入れます
先ほどの切り込みに対して、「十字」になるように、また一周切り込みを入れます。あとあと皮をむきやすくするためです
分厚めのキッチンペーパーで包んで……
水に濡らして、しぼって……
ラップに包んで……
電子レンジにイン。600ワットで6分
黒川
どうして、キッチンペーパーやラップで包むのでしょうか?
石川
分厚めのキッチンペーペーを濡らしてジャガイモをくるむことによって、電子レンジが過熱に必要な水分を補うんです。ラップだけだとちょっとシワシワになってしまいます。さあ、食べてみてください。
黒川
(食べて)うわあ、塩やバターをつけなくても、そのままですごくおいしいです! 適度にかたさを残しながらもホクホクですね。たしかに、香りもいい!
石川
でしょ!
黒川
ちなみに、芽はどれくらいしっかり取るべきでしょうか? 毒だと言われますよね。
石川
昔からジャガイモの芽には毒がある、って言われますね。でも、そんなに神経質にならなくていいと思いますよ。腹痛とか下痢になると言われる「ソラニン」っていう毒は、伸びてきた芽に含まれるんです。
黒川
伸びてきた芽に毒があるんですか。
石川
そうです。凹んでいるものは無毒だから、そんなに神経質にならなくていいんです。ただ、光が当たって緑色になってきたジャガイモは、ソラニンが表面全体にできたものなので注意してくださいね。
黒川
はい! わかりました!
次回につづきます

目次
第1回 ブロッコリーがベチャッとする
第2回 ブロッコリーの鮮度を保ちたい
第3回 ジャガイモのホクホク、キッチリ自由自在
第4回 おいしい大根に出会えない
第5回 里いもの皮をむくのがめんどう
第6回 レンコンってどんな味だろ?
第7回 甘いトマトの見分け方って?

撮影:鈴木江実子/文:黒川(所長)
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