野菜特集①ブロッコリーがベチャッとする
2018.11.01
カラダにいいから、という理由で食べている野菜。でも、そのひとつひとつをしっかり味わっているかというとギモンが残ります。「野菜をもっとおいしく味わいたい!」そんな想いを胸に『ペンギン飛行機製作所』の所長の黒川は、以前から親交の深い石川範子さんの元を訪ねました。石川さんは、長年、NHKの人気番組『ガッテン!』の料理放送回の指揮をとり、多くの一流料理人からの信頼もあつい、食のスペシャリストです。
「野菜って、調理の仕方を変えれば、ほんとはもっとおいしいんですよ!」と石川さん。ガッテンならではの科学的な視点と、双子をもつ忙しい母としての視点で、野菜の「不都合」を解決して「うれしい」に変えるワザの数々を教えてくださいました。記念すべき第1回は「ブロッコリー」です。さて、どんなお話が飛び出すでしょうか。
「野菜って、調理の仕方を変えれば、ほんとはもっとおいしいんですよ!」と石川さん。ガッテンならではの科学的な視点と、双子をもつ忙しい母としての視点で、野菜の「不都合」を解決して「うれしい」に変えるワザの数々を教えてくださいました。記念すべき第1回は「ブロッコリー」です。さて、どんなお話が飛び出すでしょうか。
石川範子(いしかわ・のりこ)さん
1972年生まれ。民放番組のディレクターを経て、『ガッテン!』(NHK)で「食」専門ディレクターとして関わり19年。多くの料理放送回の製作において中心的役割を果たし、放送後に大反響を呼ぶこと多数。科学の視点を武器に「どうすればおいしくなるのか?」を追究しつづけるその姿に、多くの一流料理人たちが信頼を寄せている。双子の母でもある。
目次
第1回 ブロッコリーがベチャッとする
第2回 ブロッコリーの鮮度を保ちたい
第3回 ジャガイモは茹でるか、レンジか
第4回 おいしい大根に出会えない
第5回 里いもの皮をむくのがめんどう
第6回 レンコンってどんな味だろ?
第7回 甘いトマトの見分け方って?
ブロッコリーがベチャッとする……
黒川
石川さん、こんにちは。この連載のテーマは「野菜」です。食材の良さを引き出すプロである石川さんに、毎回ひとつの野菜にしぼって、そのおいしさをどうやって引き出すかをお聞きしたいんです。
石川
はい、わかりました。
黒川
それから、この『ペンギン飛行機製作所』は、「不都合」を「うれしい」に変える、をテーマにしていまして、野菜を調理するときの「不都合」を石川さんにぶつけさせてもらって、その解決法をお聞きできればと思っています。
石川
野菜の「不都合」ですか。たとえば、どんなことでしょう?
黒川
里いもの皮をむくのがめんどうとか……。
石川
ああ、ありますね。
黒川
甘いトマトが見分けられないとか……。
石川
はいはい。
黒川
解決法を知ることで、野菜を手にとって、調理して、口に運ぶ過程そのものが、すごく楽しくなるようなお話をお聞きできたらうれしいです。
石川
はい、わかりました。楽しいって大事ですものね。毎日のことだから。
黒川
はい、ほんとに。それで、記念すべき第1回目は「ブロッコリー」についてお聞きしたいです。
石川
どうしてブロッコリーにしたんですか? 健康にいいから?
黒川
たしかにブロッコリーって健康にすごくいいイメージがあるから、ぼくもよく食べるんですが、なんというか、たいていおいしくないというか……。
石川
ああ、わかる気がします。ベチャッとするんでしょ?
黒川
そう! それです! ベチャッとします。ムダにやわらかくなっちゃうというか。まあ、ぼくが料理が下手なだけなんですけれど……。健康にいいから口に入れてるけど、すごくおいしいと思って食べているかというと、そうでもないな、と感じます。
石川
それこそ「不都合」ですよね。その食材にどんな栄養素があるかって大切なことだと思いますけど、口にするものだからやっぱりおいしくなきゃね、って思います。
黒川
ほんとほんと。
石川
ブロッコリーって、本当はすごく旨味(うまみ)があるんですよ。それから塩味(えんみ)もある。そもそも、これから花を咲かそうとしてるピチピチの子なんです。エネルギーにあふれてるの。おいしいに決まってますよ。
黒川
ピチピチ!(笑) 花を咲かそうとしてるっていうのは?
石川
ブロッコリーの先端のほうのつぶつぶは、つぼみです。
黒川
これ、つぼみなんですか?
石川
そうです。収穫しないで放っておくと、黄色い花が咲きますよ。
黒川
へー、そうなんですか。
石川
一株あたり、約4万個くらいのつぼみがあるんです。つぼみは新しい細胞や栄養が凝縮されているから、栄養の宝庫でもあります。
黒川
4万個も! 知りませんでした。っていうことは、それだけエネルギーにあふれていて、旨味もあるブロッコリーのおいしさを、ぼくは調理で引き出せていないわけですね。
石川
ええ、きっとそうなのだと思います。黒川さん、ふだんどうやって野菜を選んでいますか?
黒川
うーん、そのときどきによってちがいます。野菜の種類を先に決めるというよりは、どんな料理をつくろうかな、ってレシピサイトで探して、つくる料理を決めたら、必要な食材を買いに行くっていう流れです。
石川
うんうん、多くの人たちがそうしていると思うんです。でも、そこで「ちょっと待った!」と言いたい。
黒川
昔のとんねるずの番組思い出した(笑)。えーと、どういうことですか?
石川
もちろん、つくる料理を決めてから食材を買いに行くことが悪いわけじゃないんです。ただ、「きょうはブロッコリーを食べる」みたいに食材を優先することで、その良さを引き出す習慣がつくように思います。
黒川
「都民ファースト」ならぬ「食材ファースト」ですか。
石川
そうそう、「ブロッコリーファースト」みたいな。
黒川
食材ファーストにすると何が変わるんですか?
石川
料理しなくなりますよ。
黒川
え?
石川
料理レシピを見て、何つくろうか考えて食材を選ぶっていうことは、ひとつひとつの食材はあくまで「材料」です。全体をつくるためのパーツにすぎない。それぞれの食材の良さを引き出すよりも、料理を完成させることが目的になるでしょ。
黒川
ああ、たしかにそうですね。
石川
たとえば、クリームシチューをつくるとして、そのなかに「いち材料」としてブロッコリーを入れて長時間煮れば、これはどうしたってやわらかくなりすぎちゃいます。プロの料理人なら、食材の良さを生かしながら料理を完成させるけど、レシピサイトをチラッと見てつくる一般の人には、なかなか難しいですよ。
黒川
結果、ベチャッとしたブロッコリーを食べることになる、と?
石川
そうです。でもね、大きな「不都合」かというと、そうじゃないんですよ。クリームシチューとしては、まずまずの出来だな、って満足できるじゃないですか。だから、ブロッコリーのベチャは小さな「不都合」なんです。でも、これをくり返していると、ブロッコリーそのもののおいしさを味わえないの。
黒川
そうかあ、だから「料理しない」が大切なんですね。でも、石川さん、なんでも生で食べろ、っていうわけじゃないですよね?
石川
はい、もちろん。料理の一部として、食材の良さを殺してしまうくらいなら、その食材そのものをおいしく味わえる調理法を考えたほうがいい、ということです。それはたいてい、とってもシンプルな調理法ですよ。
黒川
じゃあ、ブロッコリーは、どうすればいいですか?
石川
「蒸し煮」です。
黒川
蒸し煮ですか。
石川
そうです。これが、旨味を引き出して、栄養素もしっかり残す、最適な調理法です。具体的には、ひと株分のブロッコリーを小房に分けて、カットした茎と一緒にフライパンに入れる。大さじ3の水とひとつまみの塩を入れて、フライパンにフタをして強火で2分、それから火を消してさらに2分です。
黒川
茎も入れるんですね!
石川
ええ、歯ごたえがあって、おいしいですよ。
黒川
へー、食べてみたい。茎ってどうやってカットすればいいんですか?
石川
やってみましょうか。
黒川
はい、ぜひ!
<石川流 蒸し煮の方法>
ブロッコリーの茎です。こうやって見ると美しい!
枝みたいな部分をカットしていき……
こんなカタチにして……
ふたつに分かれるようにカットし
さらに、4つに分かれるようにカットする
フライパンに大さじ3の水と塩をひとつまみ。水はたったこれだけ!
カットした茎と小房に分けたつぼみをフライパンにイン!
フタをして、強火で2分加熱し、火を止めて2分蒸らす
お皿に盛ってできあがり
黒川
わあ、かんたんですね! 「茹でる」のと何がちがうのでしょうか?
石川
たっぷりのお湯で茹でちゃうと、旨味や栄養素、たとえばビタミンC、B1、B2、葉酸なんかがお湯に流れ出しちゃうんですよ。
黒川
それはもったいないですね。
石川
そうなんです。一方で、必要最小限の水で加熱すれば、旨味や栄養素が逃げない。だから蒸し煮がおすすめなんです。蒸気の力を使って上手に加熱するわけですね。ちなみに、茹でるとビタミンCは半分以下になっちゃいますが、蒸し煮なら96%くらい残ります。しかも茹でるより味が濃くておいしくなりますよ。
黒川
ええ、そんなにちがうんですか! これで“ベチャ”も解決だなあ! しかも蒸し時間たった4分なんて、すごくうれしい。
石川
こうやって蒸したブロッコリーをそのまま食べてもいいし、サラダに入れたり、煮込んだあとのシチューに入れたりしてもいいんです。
黒川
それは便利ですね。まずは、茎を食べていいですか?
石川
もちろん。
黒川
(食べて)ああ、ほんとだ。歯ごたえがあって、旨味もすごいなあ。おいしいです。
石川
でしょ。茎っておいしいんですよ。
黒川
へー、これで茎を捨てることなく、おいしさを味わえるわけですね。
石川
はい、つぼみ部分もどうぞ。
黒川
(食べて)おいしい! ほんとだ。ベチャッと感はまったくないです。むしろシャキシャキしてる。これくらい歯ごたえがあって、口のなかで甘さが広がるブロッコリーって、ほとんど食べたことないです。すごく新鮮な味ですね。
石川
そうなんです。調理っていうほどのことをしていないのに、すごくおいしいでしょ。蒸し煮のやり方を覚えたら、あとは保存法かな、大切なのは。ブロッコリーって、鮮度がすぐ悪くなるという弱点があるので、保存法を知っておいたほうがいいと思います。
黒川
え、保存法も大切なんですか。蒸し煮にすればすべてOKというわけじゃないのか……。
石川
どう保存すればいいかと言うと……。
次回につづきます
目次
第1回 ブロッコリーがベチャッとする
第2回 ブロッコリーの鮮度を保ちたい
第3回 ジャガイモは茹でるか、レンジか
第4回 おいしい大根に出会えない
第5回 里いもの皮をむくのがめんどう
第6回 レンコンってどんな味だろ?
第7回 甘いトマトの見分け方って?
撮影:鈴木江実子/文:黒川(所長)